自宅介護編の続きです。

2023年から母はフランスで施設に入居しました。正確にいうと決めたのは姉と私です。親を施設に入れるなど飛んでもないと思っていた私たちがついに母を入居させました。24時間体制の介護が必要になってきたからです。自分を大切に育ててくれた母を施設に入れるという罪悪感は今も拭い去ることはできません。周りから罪の意識を持ってはダメと何度言われても、こればかりは無理。日本の施設への入居もずいぶん考えましたが、姉も私も長期日本滞在することが難しく、結局フランスの施設に入居させました。
アルツハイマーとはいえ、家族から離れたフランス人だらけの訳のわからないところに入れられたことは本能で感じるものです。母は優しく、控えめで穏やかな性格なのですが、自己防衛と言いますか、知らない人から自分を守る本能はすごいものです。ヘルパーさんを叩く、引っ掻く、大声を出す。私にとっては想像するのも辛いことでした。罪悪感がいきなり100倍に増大します。

施設に入居した場合は自宅介護ほどの援助はありませんが、要介護度により施設に払う介護費に対してAPAからの援助があります。施設探しに関してはcap retraite等いくつかのサイトがあり、登録すると担当者からすぐに電話がかかってきて条件に合う施設を提案してくれます。正直、しつこいぐらい電話がかかってきますが、最初の施設はこうして見つけました。

実は母は最初の施設で別の入居者を引っ掻いたために追い出されました。その次の施設は少々高額でも自宅から近いところを探しました。施設探しは体力と時間の勝負です。数日間、車で数件回って面接を重ねました。本人を同伴しないと面接してくれない施設もあります。施設を訪問して体感することはとても大切です。

施設での日本語のコミュニケーションに関しては私が日常で必要な日本語リストとカードを作成して渡しました。こちらが誠意を見せると、施設の介護士さんも協力してくれるのはありがたいことです。

母が施設に入って3年が過ぎようとしています。

介護するということをポジティフにとれると少し楽になります。2018年に開始したいきいき健康サロンには一回目から参加させてもらっています。母のためにも日本人同士の繋がりを持ちたいと思ったのがきっかけでした。介護に関する講演会、フランスアルツハイマー協会が企画する研修会、施設でのイベントにも積極的に参加しています。

運よく私の親友の通訳のおかげで「ユマニチュード」というフランス人が考案した認知症の人にどのように接するかという素晴らしいメソッドを学ぶ機会にも恵まれました。忍耐強く、明るく、優しく、楽しく認知症の方と接する、最後までその人の尊厳を守り抜くというメソッドです。介護を通して、人とは何かを学び続けています。介護を通して、人間という動物を深く深く知ることができます。

親の介護は実に辛いものです。自分が小さかった頃、あれほど完璧だった母がなんで今こうなの?と悲しくなります。施設の母に会いに行く時、施設の門を潜ったら自分の中でスイッチを切り替えるようにしています。その瞬間から別世界に入り、私が母といる時間は彼女が残りの人生で一番幸せな時間であるように楽しく過ごします。なんで?と考えずに全てを受け入れるようにしています。全てを受け入れることができるとイライラしなくなります。ユマニチュードで習った大袈裟なぐらいの笑顔で施設の全員に向き合います。

認知症の人でも、人間が死ぬ時までずっと持ち続けるのはエモーション(感情)です。怒り、悲しみ、苦しみ、孤独、喜びなど様々な感情がありますが、喜びを感じる時間が長くなるようにしてあげたい。その想いで今も週に数回、施設の母の笑顔を見るために通っています。介護に対する自分の考え方を変える、言い換えれば介護を通して、日々人生で大切な何かを学ぶという姿勢で向き合うだけで、自分が前へ進めているような気持ちになります。介護は人を一回りも二回りも大きくする貴重な経験であることに間違いありません。そんな貴重な経験をさせてもらっている自分は、脳も体も心もずっと健全でいられると信じています。

(文:かめどん)