「眠りはなぜ必要か」シリーズ ①動物も眠るの?
次第に慌ただしくなる世の中にあって、2026年はことわざにある「果報は寝て待て」に習い、睡眠について考えながらゆったりとした時間を育む一年にしたいと思います。
「眠りはなぜ必要か?」という問いに対して未だ明確な答えはありませんが、最新の研究から睡眠が様々な役割を果たしていることがみえてきました。
今回は、「動物も眠るの?」について考えてみたいと思います。
そもそも睡眠は「古代の生命」から存在していた可能性が高く、脳を持たないクラゲやヒドラも、夜になると動きや反応が鈍くなり睡眠に似た状態となるなど、「脳が複雑になったから生まれた」のではなく、 エネルギー節約、細胞修復といった生命の基本に関わるものとして獲得されたと推測されています。
動物も眠るの?
「完全に睡眠がない」と確認された生物は、現在の科学では存在しないといわれています。
動物は種ごとに特徴的な睡眠をします。
1) 睡眠の種類の違い
睡眠には、両半球睡眠、片半球睡眠、半睡眠などがあります。
1.両半球睡眠
脳の左右両半球が同時に休み、ノンレム睡眠(深い眠り)に入る一般的な睡眠です。ヒトを含む多くの陸上哺乳類や多くの鳥類がこのタイプです。睡眠中、完全に無防備になるため、安全な眠りの場所が必要です。
2.片半球睡眠
脳の片側だけを眠らせ、もう片側を覚醒に保ち呼吸や捕食リスクなど外敵への警戒を維持する眠り方です。渡り鳥などがこのタイプで、片目を閉じて脳の片側を休ませ、もう片目で飛行方向や仲間を確認します。群れの端にいる鳥は片目を開けて「見張り役」を交代で担います。回遊魚のイルカは、およそ2時間ずつ交互に脳半球を休ませます。
3.半睡眠
脳全体が完全に睡眠状態に入らず、呼吸や移動などの行動を維持しながら休息する、休息と活動の中間状態です。マグロやサメなどの回遊魚がこのタイプです。海洋哺乳類のアザラシやアシカは陸上では両半球睡眠が可能ですが、水中では片半球睡眠や断続的な半睡眠で呼吸や体温を維持します。
2) 睡眠パターンの違い
睡眠の取り方には、一日の中でまとまた時間に眠る単層性睡眠や、短い睡眠を昼夜問わず複数回とる多層性睡眠があります。睡眠時間も種によって違います。
一般的にコウモリやネズミなど運動量が多く、体重あたりの消費カロリーが大きい動物ほど、睡眠時間が長い傾向です。つまり睡眠は覚醒中に蓄積した疲労を回復すると同時に、エネルギーを節約するための最も効率のよい休養のあり方です。
人間も加齢とともに体重当たりの消費カロリーが減少するため、睡眠時間や深い睡眠が減るのは理に適ったことかも知れません。
1.単相性睡眠(まとまった時間に眠る)
・人間、ゴリラなど。夜間に集中して眠る。
2.多相性睡眠(短い睡眠を複数回)
・ネコ、イヌ、ネズミなどのげっ歯類は昼夜問わず断続的に眠る。
・ハムスターは1回の睡眠時間は15分程度で、1日に50回以上繰り返し眠る。
3)睡眠時間の違い
1.長時間睡眠型
・コウモリ(1日18~20時間)
・ハツカネズミ(12~14時間)
・ナマケモノ(14~20時間)
・アルマジロ、オポッサム(18時間前後)
2.中程度睡眠型
・ネコ(12時間)
・イヌ(10時間)
・ライオン・トラ(10~18時間)
・人間(成人)(約8時間)
3.短時間睡眠型
大型草食動物は「食べ続ける必要」があるため睡眠を細切れにして、捕食リスクを最小化します。1回あたり数分~数十分の睡眠を1日に何度も取ります。
・ゾウ(1日2時間未満)
・キリン(1日30分~2時間)
・ウマ、ウシ(立ったまま浅い睡眠+横になって深い睡眠、3時間程度)
ちなみに、冬眠と睡眠は脳波が異なり全く別のものです、冬眠は深い無意識状態になり、体温が大幅に下がり(0度近くになることも多い)低代謝状態になります。例えば、クマ、リスなどや変温動物です。
下の表に、種による睡眠の違いをまとめました。
| 種 類 | 特 徴 |
| 1 魚類 | 魚にはまぶたがないため、眠っていても目を開けたままに見える。多くの魚類は危険を感じるとすぐに逃げられるように浅い休息状態。 マグロやサメの様な回遊魚は半睡眠。マグロは口を開けて泳ぎ続けることで鰓に水を通し、酸素を取り込むため、止まると呼吸できないため静止して眠ることがでない。またマグロの脳はビー玉程度の大きさしかなく、脳の小ささと睡眠需要の低さの関係から哺乳類ほど長時間の睡眠は必要としないと考えられている。 脳波の研究からゼブラフィッシュでは、ノンレム睡眠に似た「徐バースト型睡眠」と、レム睡眠に似た「伝搬波型睡眠」が確認されている。これは脊椎動物に共通する睡眠の神経基盤が約4億5000万年前に進化した可能性を示唆する。 |
| 2 両生類 | 浅い睡眠や冬眠 カエル、サンショウウオなど |
| 3 爬虫類 | 浅い睡眠 変温動物は体温が低下すると活動を抑え冬眠に入る(ヘビ、トカゲ、カメなど)。 トカゲでレム睡眠(浅い眠り、体が休む)とノンレム睡眠(深い眠り、脳が休む)を持つことが確認されており、これらの睡眠段階は鳥類や哺乳類に分岐する3億2000万年前からあったと考えられている。 |
| 4 鳥類 | 一般的な鳥類は両半球睡眠を行なうが、レム睡眠が極端に短く、ノンレム睡眠が主体。これは筋肉の緊張を維持して木から落ちない仕組みとして適している。 一部の鳥類は「浅眠+断続睡眠」で疲労回復。例えば、ペンギンは抱卵期に4秒ず つ眠る。渡り鳥は長距離飛行中に片半球睡眠を行なう。片眼を閉じて脳の片側を休ませ、もう片側で飛行方向や仲間を確認する。 |
| 5 海洋哺乳類 | 海洋哺乳類は「呼吸を止められない」という制約から片半球睡眠を進化させた。筋力緊張が低下するレム睡眠は極めて短いかほぼゼロ。 イルカ・クジラ類 アシカ・オットセイ(海中でのみ) 鰭脚類(アザラシ、アシカ、セイウチ)は、陸上では両半球睡眠、水中では片半球睡眠と、環境に応じて睡眠様式を切り替える。 |
| 6 陸生哺乳類 | 安全な場所で深い睡眠をとる。例、ライオンは群れで休む。 捕食者ほど長く眠り、草食動物ほど短く眠る傾向がある。 霊長類で睡眠は“質”が進化した。 初期のサルは木の枝で不安定に眠っていたため、睡眠は浅く短い オランウータンやチンパンジーなどの大型類人猿は巣を作るようになり、深い睡眠(全半球睡眠)が可能になり、睡眠時間の延長、深いノンレム睡眠の増加が認知能力の向上につながった。 ヒトでは“脳のための睡眠”がさらに強化された。ヒトは大型類人猿より総睡眠時間は短いが、ノンレム睡眠の質が高い。レム睡眠の機能が高度化している(記憶統合・創造性・社会的認知など)。これは、火の使用、夜間の捕食リスク低下、社会構造の発達などが背景にあると考えられている。 |
次回は、ヒトの睡眠とその効用について考えてみましょう。
参考資料:
- 日本抗加齢医学会会誌2025:12
- 「人体大全」(新潮社)ビル・ブライソン著
久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学専門医として、人生120年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、自立して健康に心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。