認知症診断の最前線~SaMDの活用~

今回は、本年6月に開催された第26回日本抗加齢医学会総会から、最も印象に残った最先端情報の一つをご紹介します。

増加する世界の認知症患者数と「早期発見」の重要性

現在、世界中の認知症患者数は約5,700万人であり、2050年には高齢化に伴い約1億5,300万人に達すると予測されています。毎年、約1,000万人の新規症例の発生が見込まれています。一方で、認知症は早期発見と介入により発症や進行の予防が可能であることがわかってきました。そして、軽度認知症(MCI)や軽度のアルツハイマー病に対する疾患修飾薬(レカネマブ、ドナネマブ等)が臨床応用されるようになりました。

しかし、認知症の診断率は先進国においても約50%、開発途上国では10%を下回ると報告されています。早期診断につながる簡便な診断法が必要です。

「神経心理学検査」が抱える課題

従来、認知症の診断は、本人や家族からの問診や神経心理学検査として、長谷川スケール(HDS-R)やMMSE検査、MRIやCTで脳の萎縮や、他の病気(脳腫瘍など)がないかを調べる画像検査が行なわれてきました。しかし、特に神経心理学検査は、矢継ぎ早に質問される形式のため、患者は緊張やプライドから本心を明かせなかったり、耳が遠いため質問が聞き取れず点数が下がることもありました。他方、検査者にとっては、時間がかかり、採点で専門的知識による判断を必要とし客観的でないなどの問題も認識されています。また、言葉の壁など、両者にとっての課題もありました。

AIと視線計測を活用した日本初の医療機器プログラム「ミレボ」

これらを解決する認知症の診療支援方法として、デジタル技術とAIを活用した神経心理検査用プログラム「ミレボ(mirevo)」について、2025年1月、日本で初めてのプログラム医療機器(SaMD、Software as a Medical Device)として保険適用されることが決まりました。

「ミレボ(mirevo)」は、アイトラッキング(視線計測)技術を用いてタブレット画面で認知機能を評価する日本初の医療機器プログラムです。従来の代表的な神経心理検査(問診式検査)である MMSE との相関性が確認されています。検査時間や方法、受ける人の負担に大きな違いがあります(表1)。

1. ミレボとMMSEの違い


ミレボMMSE
検査時間約3分約15~20分
検査方法画面に表示された画像などを「見るだけ」で、視線の動きを自動でスコア化医療従事者による口頭での質問や筆記による対面式の回答
特徴客観的なデータが得られやすい 言語依存性が低い記憶力や言語機能、空間認知などを幅広く評価できる
負担答えられないプレッシャーなどの心理的負担が少ない検査者の技量や被験者の状態に影響されやすい

グローバル展開と一般向けアプリへの応用

ミレボは、世界14か国で特許が成立しており、4か国でプログラム医療機器承認を受けています。言語依存性が低いことや汎用端末で実施可能であることから広く海外展開が期待されています。また、ミレボの応用として、一般向け脳健康度計測アプリ 「MIRUDAKEタッチ」が開発されており、自宅で簡便に測定したデータを脳年齢サポートアプリ「ブレイン・アセット」に連携させることで、認知機能低下のパターンに応じてAIが一人ひとりに合わせた最適な脳トレメニューを提案する取り組みが進められています。

症状が現れる前の「予防と維持」の必要性

例えば、アルツハイマー型認知症の原因物質のひとつとされるアミロイβは、症状が現れるよりも20年以上前から脳内に蓄積し始めると考えられています。つまり、「まだ大丈夫」と感じている段階から、すでに脳内では変化が起きている可能性があります。このため、症状が出る前の段階で今の状態を知り、効率的で有効な脳の健康維持のサポート、将来の認知症予防が重要です。

スクリーニングと専門診断の組み合わせで早期改善へ

認知症の早期発見のため、ミレボは、かかりつけ医での最初の気づき(スクリーニング)や定期チェックに最適で、僻地医療や遠隔医療にも活用ができます。他方、MMSEは、ミレボでリスクが判明したあと、具体的に「脳のどの部分(記憶、言葉、空間認識など)が低下しているか」を細かく分析し、治療方針を決めるために専門医で実施するなど、両者を組み合わせて使うことが有用であるといえます。 MCIの段階で適切に対策を始めれば、認知機能が正常な状態に戻る可能性(可逆性)もあります。

1.(参考資料3より)

参考資料:

1) 第26回日本抗加齢医学会総会シンポジウム6, 2026

2) ミレボ MIREVO https://mirevo.jp/

3) 大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 | グループ紹介

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久住静代(くすみしずよ)プロフィール:

東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学専門医として、人生120年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、自立して健康に心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。